何が問題になるか
場面
経理担当者が、会社の預金を自分の口座へ移していたことが分かりました。帳簿と通帳の残高が合わず、調べると不正な出金が長く続いていました。会社は、お金を取り戻す方法と、刑事告訴をするかどうかを決める必要があります。発覚した直後の動き方で、残る証拠と返還の見込みが変わります。
法律の整理
初動は、証拠の保全と、本人の権限の停止です。保全する証拠は、帳簿・通帳・システムログです。本人への聴取は複数名で行い、やり取りを記録します。聴取は、強要にならない方法で進めます。
証拠の保全と権限の停止

返還は、本人の自認書と、分割で返す合意書で確保します。身元保証人や親族に保証を頼むこともできますが、保証はあくまで任意です。給与や退職金から差し引く相殺には、本人の自由な意思による合意が必要です。労働基準法第24条は、第1項で、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めています。会社の判断だけで給与から差し引くことはできず、本人の合意が前提になります。
刑事告訴は、業務上横領罪で行います。業務上横領罪は刑法第253条の罪で、刑法の「横領の罪」の章に置かれています。告訴は返還交渉の材料にもなります。ただし、告訴した後は、取下げに制約があります。告訴の時期は、返還の話合いの進み具合と合わせて考えます。
税務では、横領による損失の計上と、本人への給与課税の扱いを確認します。あわせて、職務分離と承認の仕組みで再発を防ぎます。
会社が備えること
確認すること
- 帳簿・通帳・システムログを、本人が触れない状態で保全しているか
- 本人の決裁権限、口座とシステムへのアクセス権を止めたか
- 聴取に同席する人と、記録を取る人を決めたか
- 身元保証書があるか、保証の範囲はどうなっているか
- 就業規則と退職金規程に、どのような定めがあるか
対応
聴取では、事実の確認を中心にし、退職や返済を迫る言い方を避けます。聴取の結果は書面に残し、本人が認めた内容は自認書にまとめます。返還は、金額・回数・支払日を決めた分割の合意書で取り決めます。給与や退職金から差し引く場合は、本人が自由な意思で合意したことが分かる書面を作ります。
刑事告訴をするかどうかは、返還の見込みと、取下げに制約があることを踏まえて決めます。懲戒処分の手続は社員を懲戒処分にしたい。手続はどこまで必要ですかで、本人への請求の考え方は社員のミスで会社に損害が出ました。本人に賠償させられますかで取り上げています。
税務の処理は、税理士と確認します。再発防止では、出金の担当と承認の担当を分け、通帳とシステムの記録を別の人が照合する体制にします。
職務分離と承認

ご相談で伺うこと
- 発覚の経緯と、判明している金額・期間
- 保全した資料の範囲と保管の方法
- 本人の認否と、聴取の状況
- 身元保証書、就業規則、退職金規程の内容
- 刑事告訴と返還交渉についての会社の方針