何が変わったか
指針の位置づけと改正
「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」は、内閣官房と公正取引委員会の連名で2023年11月29日に策定されました。その後、2026年1月1日付で改正されています。指針の対象は、取引先に発注する事業者と、受注する事業者の双方です。
指針は、労務費の転嫁に係る価格交渉について、発注者と受注者がそれぞれ採るべき行動を「12の行動指針」として取りまとめたものです。
指針によると、コストの上昇分を取引価格に反映せずに据え置くことは、問題となるおそれがあります。根拠となる法律は、独占禁止法(昭和22年法律第54号)の「優越的地位の濫用」と、中小受託取引適正化法(昭和31年法律第120号)の「買いたたきや協議に応じない一方的な代金決定」です。法律の改正そのものは下請法が中小受託取引適正化法(取適法)になりましたで紹介しています。
発注者に求められる行動
指針の基本的な考え方は、「多くの場合、発注者の方が取引上の立場が強く」、受注者は労務費の転嫁を言い出しにくい、という認識から始まっています。そのうえで、発注者の行動として次の内容を挙げています。
- 転嫁を受け入れる取組方針を経営トップまで上げて決定し、書面等の形に残る方法で社内外に示すこと
- 受注者から求めがなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に、発注者から協議の場を設けること
- 説明や根拠資料を求める場合は、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額などの公表資料に基づくものとすること
- 受注者がその先の取引先との価格を適正化すべき立場にいることを、要請額の妥当性の判断に反映させること
- 労務費の上昇を理由に引上げを求められたら協議のテーブルにつき、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと
- 必要に応じ、労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること
発注者から協議の場を設ける

受注者と双方に求められる行動
受注者には、国・地方公共団体や中小企業の支援機関などに相談して情報を収集することが求められています。根拠資料に公表資料を用いることと、適切なタイミングで自ら価格転嫁を求めることも挙げられています。発注者と受注者に共通する取組は、定期的にコミュニケーションをとる機会を設けることです。価格交渉の記録を作成し、双方が保管することも求められています。
価格交渉の記録を双方で保管

会社が備えること
発注する側では、次の点が見直しの対象になります。
- 労務費の転嫁を受け入れる方針が、経営トップの決定として文書になっているか
- 取引先と定期的に協議する時期が決まっているか(指針は例として毎年3月と9月の価格交渉促進月間を挙げています)
- 交渉担当者が求める根拠資料が、公表資料に基づくものになっているか
- 公表資料に基づいて示された額を満額受け入れない場合に、その根拠や理由を説明する手順があるか
- 価格交渉の記録を作成し、保管しているか
注意点
指針は「留意すべき点」として、受注者からの要請の有無にかかわらず、明示的に協議しないまま取引価格を長年据え置くことを挙げています。実質的にはスポット取引とはいえない取引で、スポット取引であることを理由に協議せず価格を据え置くことも同じです。公表資料が提出されているのに、詳細な資料や内部情報まで求め、協議しないまま価格を据え置くことも、問題となるおそれがあるとされています。
指針に沿わない行為によって公正な競争を阻害するおそれがある場合、公正取引委員会は独占禁止法と中小受託取引適正化法に基づき「厳正に対処していく」としています。一方で、発注者の行動と共通の行動をすべて適切に採っている場合は、「通常は独占禁止法及び中小受託取引適正化法上の問題は生じない」という考え方も示されています。