何が変わったか

事案

最高裁判所第一小法廷は、令和5年7月20日、令和4(受)1293の地位確認等請求事件について判決を言い渡しました。裁判例検索では、裁判種別は「判決」、結果は「その他」と表示されています。判例集等の欄には「集民 第270号133頁」と記載されています。

原審は名古屋高等裁判所です。原審事件番号は令和2(ネ)769で、原審裁判年月日は令和4年3月25日です。

裁判要旨によると、事案は自動車教習所の教習指導員の業務に従事する労働者の労働条件に関するものです。比べられたのは、次の立場の労働者です。

  • 教習指導員の業務に従事する無期契約労働者
  • 定年退職後に再雇用され、同じ業務に従事する有期契約労働者

争われたのは、両者の間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違です。参照法条は、労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条です。原審は、この相違の一部が同条にいう不合理と認められるものに当たると判断していました。

同じ業務に従事する労働者の基本給

同じ教習車のそばで、再雇用後の指導員と別の指導員が教習の準備をする場面。
無期契約労働者と、定年退職後に再雇用され同じ業務に従事する有期契約労働者の基本給の相違が争われました。

判断

裁判要旨は、原審の判断について次の点を挙げています。

  • 無期契約労働者の基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から、年功的性格を有するものであったなどとするにとどまっていること
  • 各基本給の性質や、これを支給することとされた目的を十分に踏まえていないこと
  • 労使交渉に関する事情を適切に考慮していないこと

そのうえで裁判要旨は、上記の相違の一部を不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法があるとしています。

判示事項も、同じ趣旨を記しています。基本給の金額が異なるという労働条件の相違の一部を不合理と認められるものに当たるとした原審の判断に、違法があるとされた事例という記載です。

裁判要旨が述べているのは、原審の判断の過程に関する点です。再雇用後の基本給をどの水準にすべきかは、裁判要旨には書かれていません。判決の内容は、裁判例検索の「全文」から確認できます。

会社が備えること

裁判要旨は、基本給の相違を検討する際の視点として、基本給の性質、支給の目的、労使交渉に関する事情を挙げています。定年後再雇用制度を持つ会社にとって、これらは賃金設計を見直すときの手がかりになります。

基本給は、複数の要素を含む場合があります。例えば、職務の内容に応じた部分、能力に応じた部分、勤続年数に応じた部分などです。再雇用の前と後で基本給の金額が変わる場合は、要素ごとに、どのような性質を持ち、何の目的で支給しているのかを説明できる形に整えておくことが、実務上の備えになります。

裁判要旨は、原審が一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を認めた点にも触れています。基本給の性質を説明する際には、個々の従業員の金額の推移だけでなく、基本給を支給することとした目的を示す資料も確認しておく項目です。

また、裁判要旨は労使交渉に関する事情にも言及しています。再雇用後の労働条件について、労働組合や従業員と話し合った経過があれば、その記録を残しておくことも確認の項目になります。

再雇用制度の前提となる高年齢者雇用のルールは、高年齢者雇用の経過措置終了の法改正コラムで紹介しています。

基本給の性質と支給の目的を確認

人事担当者が基本給の要素を並べ、再雇用される従業員に説明しながら経過を記録する場面。
基本給の要素ごとの性質と支給の目的を説明できる形に整え、話し合った経過の記録を残します。

出典