何が変わったか
事案
本件は、外国人の技能実習に係る監理団体の指導員が、事業場外で従事した業務をめぐる事案です。争点の一つは、この業務が労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかでした。
裁判要旨によると、指導員の業務は次のようなものでした。
- 実習実施者に対する訪問指導
- 技能実習生の送迎
- 生活指導や急なトラブルの際の通訳等
指導員は、訪問の予約を行うなどして、自ら具体的なスケジュールを管理していました。所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや、自らの判断で直行直帰することも許されていました。随時具体的に指示を受けたり、報告をしたりすることもありませんでした。
一方で、指導員は就業日ごとに業務日報を提出していました。日報には、始業時刻、終業時刻、休憩時間のほか、訪問先、訪問時刻、おおよその業務内容等が記入されていました。
原審は福岡高等裁判所です(令和4(ネ)595、令和4年11月10日判決)。原審は、この業務について「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断しました。
スケジュールを自ら管理

判断
最高裁判所第三小法廷は、令和6年4月16日に判決を言い渡しました(令和5(受)365、損害賠償等請求本訴、損害賠償請求反訴事件)。判例集等の欄には「集民 第271号85頁」と記載されています。
判示事項は、本件を「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例と整理しています。
裁判要旨は、原審の判断について次のように述べています。業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある、というものです。
この判断は、前の節で見た業務の内容や、指導員のスケジュール管理・休憩・直行直帰・指示と報告の状況など、判示の事情の下で示されたものです。裁判例検索の結果欄は「その他」とされ、補足意見があることも記載されています。
会社が備えること
本判決の裁判要旨は、業務日報が提出されていたという事情だけでなく、その正確性がどのように担保されていたかに目を向けています。裁判要旨は、業務の内容、スケジュール管理の方法、休憩や直行直帰の扱い、指示や報告の有無といった事情も挙げています。
事業場外で働く社員に労働基準法38条の2第1項のみなし労働時間を適用している会社では、裁判要旨が挙げた事情が、自社の運用を見直す際の手がかりになります。
- 事業場外の業務の具体的な内容
- 業務日報に記入させている項目と、その正確性を担保する仕組み
- スケジュールを誰が決めているか
- 休憩時間や直行直帰の扱い
- 業務中に指示を出したり報告を受けたりしているか
業務日報を労働時間の把握に用いている会社では、日報の記載をどのように確かめているかを見直す意味があります。
本判決は、個別の事情の下での判断を示したものです。同じ制度を使っていても、業務の実態が違えば、裁判要旨がそのまま当てはまるとは限りません。
労働時間の扱いをめぐる請求への対応は、退職した社員から未払い残業代の請求書が届きましたで紹介しています。
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